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INTERVIEW

Japanese

パスピエ

2016年08月号掲載

パスピエ

Member:大胡田 なつき(Vo) 成田 ハネダ(Key)

Interviewer:秦 理絵

-じゃあ、ゲーム音楽っぽくしようなんて微塵も思ってない?

成田:"ゲーム音楽ってどういうの?"って感じですね。

大胡田:私はゲームが大好きだったから、昔のファミコンでこういうシューティング・ゲームみたいなのがあったなと思うんですけど。(成田は)全然わからないんです。でもそこを意識してないのが逆にいいのかもしれないですね。

成田:僕に対しては誤解があるんですよ。"ゲーム好きなんですか?"とか、"アニメ・ソング好きだったんですか?"とか。何がそう思わせるのか知りたいんです(笑)。

大胡田:そのあたりってニュー・ウェーヴと繋がりがあるからじゃない?

成田:そうだね。だから僕がこういう曲を書いてる原因は聴いてきたニュー・ウェーヴのバンドからの影響しかないですよね。

-それにしてもオリエンタルな和テイストの「永すぎた春」とデジタル感のある「ハイパーリアリスト」の2曲が両A面にあるのが対照的でいいですね。

成田:これでパスピエの中にある両極の良さが二軸で伝わればいいなと思ってます。両A面ってメリットだけではないと思うんですよね。推す曲が増えるほど、伝えたいことはボヤけていくものなので。だからリリースの仕方として、これが必ずしも正攻法だとは思わないですけど、今のパスピエがやるうえでは、こういうチョイスが正しいなと思ってます。いずれまた自分たちのところに返ってくる出し方だなとは思ってるんです。

-いつか自分たちに返ってくるっていうのは?

成田:シングルを出すっていう行為は"点"なんですよ。今年は自己紹介をする年だから、やらなきゃいけないことは、"面"で聴かせることなんです。だとしたら、アルバムを出せばいいんですけど、パスピエにとって今年の核になる曲はこれだよっていうのは、ちゃんと文字としても伝えていけたらというのはあるんです。アルバムって、やっぱりアルバム・タイトルもあるので、曲自体がフォーカスされることがなかなか難しいんですよね。

-つまりタイミングを空けずに"点"を出すことで、"面"にして見せていくんですね。

成田:そうです。曲を"面"で見せていくことに意味があるんです。

-カップリングのTrack.3は「REM」。これは"アール・イー・エム"と読むんですね。

大胡田:普通に"レム"って呼んじゃうと、"あ、レム睡眠のことね"ってわかっちゃうと思うので、"アール・イー・エム"って聞いて"レム"だと面白いなと思ったんです。そんなに深い意味があるわけじゃないんですけど(笑)。

-「REM」はバンドの躍動感があって、また違うパスピエが聴けるんですよね。

成田:ここの肉体感みたいものは何年もライヴをやっていく中で勝手にバンドとしてついてきたものですね。こういう音も出てくるようになったなって、自分たちでも改めて気づく部分が多くて。これも半分狙って、半分狙ってないみたいなところがあるんですけど、今回の「永すぎた春」、「ハイパーリアリスト」、「REM」っていうオリジナル曲のBPMは徐々に上がっていってるんです。普通はリード曲がアッパーでカップリングで遅くなっていくんですけど、その逆になってるんですよ。

-たしかに言われてみると。

成田:そうやってどこから切ってもパスピエだよっていうのは見せたいんです。CDを買ってみたら、"あ、こういう曲も入ってる。もしかしたらカップリングが一番好きかもしれない"っていう、そういう感情が湧くのがCDだと思うんです。表題曲はYouTubeでも聴けるけど、CDを買った人にも楽しみを残しておけるような作品にしたいなと思いました。

-「REM」はメロディに懐かしさもあってすごく良いですもんね。

成田:この曲はMGMTの「Kids」(2008年リリースの1stアルバム『Oracular Spectacular』収録曲)を速く、かつパスピエなりのロックにしたイメージなんですよね。イントロのメロディを文字ってる感じなんです。それをわからないようにストリングスで重ねたりしてます。それがこの曲のきっかけですね。

大胡田:そうなんだ。初めて聞いた。

-最後にカバー曲として倉橋ヨエコさんの「今日も雨」(2007年リリースの5thアルバム『色々』収録曲)も入ってます。名曲ですね。

成田:なかなか他の人がやらなそうな曲をチョイスしたつもりです。且つ、パスピエがやったら面白い提示ができるんじゃないかなっていうところでこの曲をカバーしました。倉橋ヨエコさんは曲もそうですけど、声質だったり存在自体も斜め上な見え方をしてて。「今日も雨」はそんな彼女が書いた曲の中でも1位になるぐらいにストレートなロック・サウンドだなと思ってるんです。僕らも変化球バンドみたいな見え方もあるし、同じって言っていいかわからないですけど、シンパシーを感じるところがあって。より歌詞が引き立つようにアレンジしましたね。

-倉橋ヨエコさんは中低音域の声が印象的なジャズ歌謡みたいな歌ですけど、そういう特徴的なヴォーカルを自分でカバーすることに対して、どういうふうに消化しましたか?

成田:寄せようと思うと寄っちゃうんですよ。同性ですし。だからバンドの音に集中しながら、全然違う雨のイメージで歌いました。テンポも落として、音数もどんどん抜いていって、ヨエコさんとは全然違う、パスピエの"雨"を表現できたと思います。

-なかなかパスピエの年代で倉橋ヨエコさんをカバーするバンドはいないですよね。

大胡田:年齢を重ねれば、掘り返される曲もどんどん新しくなっていくので、そのサイクルはいつも壊したいと思ってるんです。基本的に30年前の曲がフィーチャーされるものなので。2016年になると1990年代の曲が持ち上げられる。でもやっぱり70年、80年代に名曲がたくさんあるんです。だからパスピエなりの発掘の仕方ができればいいなと思いました。

-新たな"自己紹介"がテーマのシングルとして、今作はデビュー5年のパスピエがまだまだ未知の可能性を秘めてることを感じさせるシングルですね。

成田:そうですね。やりたいことは無限にあるので、どんどん消化していきたいなと思います。"あ、こいつらまだこういう活動やってる"っていうような、頭の片隅でこびりつく存在でいたいんです。やっぱりバンドって1stアルバムの印象が一番強く聴き手に残ってるものなんですよね。それは邦楽も洋楽もそうですけど、そこを超えていくことは生半可な気持ちではできないと思うので、ずっとトライしていきたいんです。