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INTERVIEW

Japanese

THE BACK HORN

2015年09月号掲載

THE BACK HORN

Member:山田 将司(Vo) 菅波 栄純(Gt) 岡峰 光舟(Ba) 松田 晋二(Dr)

Interviewer:天野 史彬

目を背けたくなるような心の奥底の闇に、それでも目を向け続けてきた。闇を拒むのではなく受け入れ、そして光へと導いてきた。孤独な叫びは、いつしか他者と共鳴する歌へと変わった。結成から17年、THE BACK HORNが歩んできた道のりは、それ自体がまるでメッセージのように胸に突き刺さる。アルバム『暁のファンファーレ』以来の音源となる両A面シングル『悪人/その先へ』。収録曲すべての作詞作曲を菅波栄純(Gt)が手掛けた本作で彼らは、人の心の闇の、その最深部へと再び目を向けた。そして、バンドの旅の始まりへと立ち返った。この先の道で、より強い光を、あなたと共に鳴らすために。

-シングル『悪人/その先へ』は、収録された3曲ともに、THE BACK HORNが鳴らし続けてきた根源的な部分が濃縮された作品だと思いました。まず、Track.1「悪人」に関して、すごく漠然とした質問をしたいのですが、皆さんは"悪"という言葉からどんなイメージを持ちますか?

山田:深けぇなぁ......。

松田:じゃあ、俺から。まぁ、"悪"という言葉を聞いたとき、その反対の言葉って、よく"善"っていうことになるじゃないですか。でも、自分の中では"天使と悪魔"っていうのも、"悪"から浮かび上がる対比のイメージとしてあって。自分が歌詞を書いたりしているとき、"天使と悪魔"の例えをよく使っていたことがあるんです。"悪"っていう言葉だけ取ると、それは許されない罪のような気がするけど、"天使"と"悪魔"を並べてみると、天使は救いというか、死んだあとに天に向かって連れていってくれるイメージがある。例えば"フランダースの犬"の最後のシーンみたいな(笑)。それに対して悪魔は、悪の念の塊というよりは、生きてきて、どこかしらに罪を犯した人間に最後に裁きを下し、そこからさらに修行をさせる存在というイメージとしてあるんですよね。これは多分、仏教的な考えとヨーロッパ的な思想が絡んでいる感じだと思うんですけど。悪魔像が、閻魔様と似ているんですよ。悪魔は裁く者で、俺らが裁かれる者。

菅波:その解釈、面白れぇな。俺も一瞬、悪魔が思い浮かんだけど、悪魔って、神話的には、天使を正しいものとするために生み出されたっていう説もあるらしくって。正しいものを正しいと言うために悪という存在が生み出された......っていう話を、今思い出した。でも、正直、"悪"っていう言葉から俺が最初に思い浮かんだのは、"悪酔い"っていう言葉(笑)。

-ははははは(笑)。

菅波:たいして広がんないなぁって思ったんだけど(笑)。でも、"悪友"っていう言葉があるじゃないですか。あれって面白れぇなぁと思って。俺の解釈ですけど、悪友って、親友とはまた違うニュアンスだけど、俺にとっては親友的なニュアンスも入っている感じがあるんですよ。一緒に悪いことしたり、いつも喧嘩になっちゃったり、自分を悪い道に引きずり込もうとする、綺麗なだけの関係じゃない友達のことを"悪友"って言うのかなって思うんですけど、でも、1番の親友が悪友の場合もあるよなぁって。だから、"悪"と言っても、悪いことばっかりではない。そういう解釈もあるなって。

松田:悪巧みすると結束感が高まったりするしな。

-なるほど。岡峰さんは?

岡峰:最初思いついたのは、テレビでニュースを観たときに、毎日毎日、事故や事件で人が死んでいっているのに、それについて何も思ってない自分がいる。それなのに、猫の虐待のニュースとかには腹を立てる......これって何だろう?ってことで。他人のことに無関心なのか、なんなのか......何か、バランスがおかしい。それが"悪"かなぁ。

菅波:たしかに、身内のことになると腹立ったりするのに、立場によって自分の気持ちが変わることって、あるよな。

-山田さんは?

山田:ふと思ったのは、小学校1年生のときに、万引きをしたんですよ。そのときは兄と一緒に駄菓子屋に行ったんですけど、そのことを、兄にずっと弱みとして握られていて。それで、俺の中で罪悪感としてそれが残っていて。罪悪感って、持った時点で、まず自分のことを信じられなくなっちゃうじゃないですか。それは、だいぶ悪だなって思いますね。自分を信じられなくなることが"悪"。それと同時に、自分を信じないと生きていけないから、無理やりでも自己肯定をしていくじゃないですか。それもまた"悪"だなって思うし。だから......自分が"悪"なんですかねぇ。

-今、みなさんの話を聞いて思うのは、みなさんの中での"悪"は、何か決定的なものとして外側に存在しているんじゃなくて、むしろ自分たちの中に内包されるものとして捉えられているということで。それは、"あの悪人はきっと僕だ"というフレーズから始まる「悪人」で歌われる本質のひとつなのかなって思うんです。今回、"悪人"というモチーフで曲が生まれたのは、どうしてだったんですか?

菅波:去年末に、どっかのイベントでスタッフの人に"次、どんなの作るんですか?"って聞かれたんですよね。そのときに思いついたのが"悪人"だったんです。"悪人だけど、他人事じゃない悪人を書きます"って、そのときは答えたんですよね。自分でも、なんでそんなことを思いついたのかはわからないけど。でも、歌詞のきっかけノートみたいなのがあって、そこにはもう"あの悪人はきっと僕だ"っていう歌い出しは書いてあったんですよ。それをどうやって育てるのかは自分の中でもわかってなかったんだけど、人に聞かれた瞬間に"悪人を描いてみたいと思ってる"って口から出てきて。それがスタート地点でしたね。人懐っこい......って言ったら変かもしれないけど、"俺とは違うなぁ"って割り切れるような悪人じゃない悪人を描いてみたいなと思いましたね。

-なるほど。この曲は、どこかで今の日本の社会的状況にもリンクして考えることのできる曲だなって思ったんですが、そういう部分に対する意識はなかったですか?

菅波:そういうことは、自分の中ではなかったですね。政治的な主張とかでもない。ただ、震災以降、みんなが声を上げるようになったことで、自分の耳にもいろんな声が届くようになったのを無意識に聞いていると、誰かを悪としようとする声も聞こえてくる。そういうのを聞きすぎたのかなぁ? まさに天使と悪魔の話じゃないけど、本当に自分が正しくて、はっきりと違う悪がいるのか?っていうことは、ふと考えていたのかもしれないです。ちょっと不確定だけど。......でも、それよりも今回は、制作全体として"THE BACK HORNらしいものを目指そう"っていうテーマが、まずあったんですよね。で、俺にとっての"THE BACK HORNらしさ"っていうは、自分の腹の中に今まで以上に潜って言葉や音楽を掴んでくることなのかなって思って。それで、こういう曲が出てきたんだと思う。