Japanese
WHITE ASH
2017年04月号掲載
Writer 石角 友香
WHITE ASHは間違いなくロック・ドリームそのものだった。結成当時の2008年といえば、音楽シーンは前向きでポップな応援歌がヒット・チャートを賑わし、一方で、作曲能力を持つオタク青年たちはひとり宅録に勤しみ、のちにブームとなるボカロPの黎明期を過ごしていた。もちろんバンドも多く結成されてはいた。例えばWHITE ASHのレーベル・メイトである忘れらんねえよ然り、WHITE ASH同様、その発端に洋楽志向を持つandrop然り。また、KANA-BOONや04 Limited Sazabysなども2008年結成組だ。今思えば日本のバンド・シーンの層が厚くなり、多様性に富んだものになる助走期間だったとも言えるだろう。
それにしても、WHITE ASH、特にフロントマンでありほとんどの楽曲の作詞作曲を手掛けるのび太(Vo/Gt)の、普通を超えて個性的ですらあるメガネとひょろ長い手足を持ったルックスに対し、彼が生み出すシンプルにして十全なロックンロールのフォルム、そしてステージに上がると圧倒的なスター性を発揮するというギャップには、当初、誰もが驚いたはずだ。ソロ・デビューから徐々に人気を博していった星野源ともどこか重ならないこともない、ジャンルを超えた"普通か、もしくはそれ以上にぱっと見、冴えない男子が、その音楽的造詣とセンスと努力を本気で出し切ったときの迫力=生まれついてのイケメン以上の感動的な男前っぷり"(長くてすみません!)。時として人はそれに魅了されるのだという気づきはあまりにも大きかった。と、同時に日本人のみならず、イギリスのバンドだろうが、アメリカのバンドだろうが、"誰でもギターを弾いてヒーローになれるんだ"という、ギリギリ80年代までは信じられていた奇跡を信じられなくなった時代に、"そんなのはかっこいい曲を作れない奴の言い訳にすぎない"とばかりに(もちろん、そんな攻撃的なことをのび太は言わないが)、ステージ上で輝いていたのび太の痛快さといったら、他に比較できるバンドマンはいなかった。
そして、ひらめきで曲を作るタイプながら、のび太は再びシンプルで、その音がどんな小さく古いライヴハウスで鳴ろうが、一瞬でその場を輝かせるロックに前向きに回帰したという4thアルバム『SPADE 3』のインタビュー時に、敬愛するARCTIC MONKEYSの発言を踏まえ"ロックンロール・バンドが世界的に復権する日は来ると思います"と、必ずしもギター・ロック・バンドが世の中のトレンドではないことを認めたうえで、来るべきその日のために自分たちは自分たちでかっこいい曲を作り続けるだけだと明言していたのだ。彼にはそういう冷静な視点もある。だからこそ、今回の解散は心底悔しい。解散理由は詮索不要だが、それにしてもあまりにも突然の出来事で今も釈然としない気持ちのまま、"ラスト・アルバム"となる初のベスト・アルバム『LOVE』と向き合っている。
シンプルに"LOVE"と題されたベスト・アルバムは、メンバー・セレクトによる2枚組、全24曲を収録。シングルはシングル、アルバムはアルバムでひとつの作品として表現することをモットーにしてきた彼ら。いくつかの例外を除いて、シングル・リリースのみのライヴでのキラー・チューンも多い。そうした事実もあってか、今作には『Paranoia』から『Insight / Ledger』まで7枚のシングルの表題曲はすべて収録されている。加えて、このベスト・アルバムのために全曲通してマスタリングされているのだが、原曲の持っているパワーや、当時のモードは当然、色濃く残されている。
ファンにとって、なんと言っても待望なのは"DISC 1"の1曲目が最後の新曲であることだろう。"Stealth=内密"と題されたその曲は、『SPADE 3』同様、最新の機材と録音技術を備えたRed Bull Studios Tokyoでのレコーディングで、今までのWHITE ASHの楽曲のニュアンスとはひと味違うヘヴィ・チューンに仕上がっている。8ビートのタイトさやリズムの攻撃性は、3rdミニ・アルバム『Quest』の延長線上にあると言っていいだろう。興味深いのはほぼ全編、日本語で書かれた歌詞で、"深い暗い森 一人いるよう"、"向こうは闇"といった、見えない現状と未来を示唆しながら、誰にも自分が進むことは止められないとばかりに"全部捨てていけばいい 戻れぬように"という、のび太の強烈な意志を感じずにはいられないサビが突き刺さる。歌詞が書かれた時期も動機もわからないが、少なくとも単なる情景描写やイメージじゃないことは伝わってくる。しかし、もうこの曲をあの4人の演奏で聴いたり、観たりすることはできないのだ。残念だけれど、この曲を勝手にラスト・メッセージとして、ファンも自分の道を行くしかないだろう。
00年代ロックンロール・リバイバルを消化した日本のバンドというカテゴリーを超えて、古くならない曲の強度とサウンドのセンス
そんなシリアスな思いと同時に、この2枚組24曲の構成は単純にWHITE ASHというバンドがいかに00年代の洋楽の影響を受けながら、それを具体的なサウンド・プロダクションとしてリアルに落とし込んでいったバンドなのかがわかる流れにもなっている。楽曲の新旧の時系列は分解され、あたかも1本のライヴを観るような緩急とダイナミズムを持った曲順がいい。誰もが新鮮さと緊張感を持って聴く新曲「Stealth」の流れを受けた「Ray」。この曲も道なき道を進むようなイメージがある。ロックンロールには最高のリフが不可欠だが、ゾクゾクするようなイントロから、クールなAメロ、キャッチーなサビまで、BPMの速さでノせる手法とは正反対の緩急で体感するスピード感を持つ「Crowds」、空間系のエフェクトやウィスパーと地声をダブルにしたヴォーカルもちょっとホラーな「Ledger」、一転、往年の名曲感を湛える「Night Song」。エモ好きにも訴求しそうなサウンドを持つ「Casablanca」、「Number Ninety Nine」と、2ndアルバム『Ciao, Fake Kings』の曲が続く。そして目まぐるしいリズム・チェンジでありながら、ラフなロックの醍醐味も備えた初期の代表曲「Kiddie」、のび太の歌メロのひとつの特徴でもある、ゴシック・テイストなメロとラップ的なフロウの両方が登場するまで、"DISC 1"の12曲は一気に聴ける。
"DISC 2"のオープナーはメジャー・キーでスケール感のある「Aurora」で意表を突くが、こうしたロック・バラードこそバンドのセンスは問われる。のび太の控えめな柔らかい歌い方や、バラードでも3分半という潔さがいい。また、『SPADE 3』のチャレンジングだった部分として、踏みしめるようなスローなBPM、セクシーにすら聴こえるギター・リフで強い印象を残した「The Phantom Pain」の頼もしさを改めて感じた。そこから一転して、いかにも初期曲らしいR&Rリバイバルを彼らなりに参照した3連のビートや、ファンクを感じさせるカッティングにセンスの良さが凝縮されまくっている2ndシングル収録曲「New Wave Surf Rider」。いい意味でラフで、サウンドも削ぎ落とされ切っていないのが、むしろ次の無駄がまったくない疾走する「Blaze」と好対照を描いていて興味深いのだ。言わばバンドの初期と最新の曲とのサウンドやリズムの違いを味わうのも、このベスト・アルバムならではの仕掛けだと思う。また、素朴ゆえに歌に表情がなければ平板になりそうなところを、静かに心をあたためる名曲として形にした「Would You Be My Valentine?」の完成度も聴き逃せない。もう1曲、WHITE ASHのレパートリーの中では異彩を放つシティ・ポップ的なシーズン・ソング「Xmas Present For My Sweetheart」を収録したのもどこか贈り物としての要素を感じて、曲のクオリティはもちろん、"シンプルでかっこいいロックンロール"の多様性を味わうことができる。"DISC 2"の後半は1stシングル曲「Paranoia」や「Jails」、「Stranger」など、いい意味でサタニックなムードのあるギター・フレーズや重いベースに、変則的でジェットコースターのような展開を見せるリズムといった、WHITE ASHが日本のギター・ロックに持ち込み、リスナーが新たなグルーヴの快感を覚えた代表曲、そして彼らにしか成し得なかった、一見マニアック、でもそれを一瞬でキャッチーなものに変換してしまう中毒性の高いリフや歌メロを生み出せるオリジナリティが結集している。
改めて思うのは、現段階で古くなった曲はひとつもない。まだまだ分析したいぐらいだ。WHITE ASHとしての活動は本作を持って終了するけれど、メンバー個々人のセンスとポテンシャルを思うと、早く今後の動向を知りたくなるのだ。
▼リリース情報
WHITE ASH
ベスト・アルバム
『LOVE』
2017.3.29 ON SALE
VPCC-81900/¥3,000(税別)
[Vap]
amazon
TOWER RECORDS
HMV
[DISC 1]
1. Stealth
2. Ray
3. Thunderous
4. Crowds
5. Ledger
6. Night Song
7. Casablanca
8. Number Ninety Nine
9. Insight
10. Kiddie
11. Hello, Afternoon
12. Velocity
[DISC 2]
1. Aurora
2. Hopes Bright
3. The Phantom Pain
4. New Wave Surf Rider
5. Blaze
6. Would You Be My Valentine?
7. Xmas Present For My Sweetheart
8. Orpheus
9. Paranoia
10. Monster
11. Jails
12. Stranger
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