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THE BLACK KEYS

2014年06月号掲載

THE BLACK KEYS

Writer 石角 友香

若い世代の洋楽離れという物言いは大雑把すぎて嫌いだが、ことTHE BLACK KEYSに関しては、日本と海外(英語圏もしくは英語を理解するリスナーがいる地域)での知名度が乖離しすぎている。ここで紹介する通算8枚目のアルバム『Turn Blue』は米ビルボード・チャートでMichael Jackson『Xscape』を押さえて堂々のNo.1デビュー。対抗馬がマイケルの遺作というのも微妙、という人には、前作『El Camino』は第55回グラミー賞でアルバム・オブ・ジ・イヤーなど主要5部門にノミネートされ、3部門で受賞。今年のグラストンベリー・フェスティヴァルでも主要な場面での出演が決定。これでどうだろうか?どう考えても全世界的にロック・シーンの重要バンドであることは異論を挟む余地なしだ。

じゃあ何故ここまで本国と日本でのリアクションに差があるのか?と言えば、THE BLACK KEYSの音楽と存在があまりにもリアルに"今のアメリカ"を投影してるからじゃないだろうか。過去3作に続き第3のメンバーとも言えるDanger Mouseを共同プロデューサーに迎えつつ、以前のブルースやガレージの独自の引用は若干影を潜め、日常の中に潜む闇が、時に狂気的なオルガンやサイケデリックなアレンジなどに見て取れる。それこそDan Auerbach(Vo/Gt)がTV宣教師を演じたMVもアイロニカルな「Fever」での、決してアッパーになりきれないディスコ・ファンク・テイストにも、今の彼らがロックの初期衝動や繊細さだけでバンドを駆動させていないことはわかる。もちろん、それを音楽的なレンジの拡大とも取れる。「Fever」を通過した耳でアルバムのプレイ・ボタンを押すと、やおらLED ZEPPELINばりのリフやソロを含む長いイントロダクションを持つTrack.1「Weight Of Love」の大仰さにひっくり返ったり、以前、共演したJohnny Deppと一緒に演奏してほしい感じの、ダークなオルタナ・カントリー風の「In Time」、奇妙なループ音とやさぐれたサウンドスケープが"ここではない何処か"感を醸すタイトル・チューン、スカスカな音作りやチープなシンセがむしろイマドキの共通言語を導き出す「10 Lovers」など、これまでのファンにはビザールに映る曲調もあるだろう。だが、ラストはこれぞアメリカン・ロックな陽性の「Gotta Get Away」で締める辺り座りがいい。しかしその明るさがそれまでの若干パラノイアックな展開に対する光明のようで切なくもある。なんだろう?アメリカで生活しているわけではないので想像でしかないけれど、もはや人種間ではなく1%の富裕層と99%の貧困層という極端な格差社会の中で、それまでのコミュニティや価値観が崩壊していくアメリカ。そんな中でのこのアルバムが全米1位を獲得したことを裏返して考えてみると、リベラル意識は音楽嗜好の中でまだ確かに息をしているということじゃないだろうか。このアルバムを覆う不穏となんとも言えない切なさは、アメリカでは好事家の趣味の対象なんかではないはずだ。

それにしてもJack Whiteに"THE BLACK KEYSなんてTHE WHITE STRIPESのパクりだ"とディスられ、Danがそれに反論したり、一方のPatrick Carney(Dr)は逆に、Justin Bieberのファンの洗脳ぶりをディスって、4000万人以上いるJustinのTwitterフォロワーに逆襲されるなど、今や有名税を払わされている感じだ。髭面の普通のオジサン風のDanと、眼鏡が似合うサラリーマン風、だけど毒舌のPatrick。地味な2人ではあるけれど、彼らはロックの核心を掴みつつ同時にその意味をアップデートし続けている。THE BLACK KEYSのロックは対岸の火事なんかじゃない。前回の来日からもう10年。そろそろこの目で何が起こっているのか目撃したい。



THE BLACK KEYS 『Turn Blue』
[WARNER MUSIC JAPAN]
WPCR-15735 ¥2,457(税別)
NOW ON SALE
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1. Weight Of Love
2. In Time
3. Turn Blue
4. Fever
5. Year In Review
6. Bullet In the Brain
7. It's Up To You Now
8. Waiting On Words
9. 10 Lovers
10. In Our Prime
11. Gotta Get Away

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