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PHOENIX

2013年05月号掲載

PHOENIX

Writer 吉羽 さおり

2009年にリリースされた4thアルバム『Wolfgang Amadeus Phoenix』は、フレンチ・アーティストとして初めてグラミー賞“ベスト・オルタナティヴ・ミュージック・アルバム”を受賞。それまで、コアなロック・ファン、音楽ファンの間でじっくりと愛でられ、堪能されてきた、フューチャリスティックかつ、懐かしい温かみや手触りも残したロック・サウンドは、世界中で話題となったフランス、ヴェルサイユ出身の4ピース、PHOENIX。グラミー賞の受賞後は、欧米の名だたるロック・フェスティヴァルでひっぱりだこ。日本でも2度目のSUMMER SONIC出演や、全日ソールド・アウトの単独ツアーを行ない、また大規模なワールド・ツアーへと繰り出し、デビュー10年にして、大きな転換期を迎える作品となった。
その、バンドの出世作から4年。いよいよPHOENIXのニュー・アルバム『Bankrupt!』が完成した。オリエンタルなキーボードのフレーズが軸となったイントロから、アグレッシヴに走り出して、宇宙へと駆け抜けていくようなTrack.1「Entertainment」から、そのポップ・ワールドが炸裂している。メンバーが“アルバムの中でもいちばん複雑に入り組んだ曲。論理的に組み立てていったけれど、アルバムに収録するまでにいろいろと苦労した”と語るサウンドの構成は、とても緻密だ。世界中を旅して、その土地、土地で鳴る音、音階の妙を楽しみ、そのさまざまな音のパズルをもう一度大きな地図にあてはめて行くような感覚。リスナーは心地好い旋律に揺られながら、いろんな匂いやざわめきを体感していくとてもダイナミックな旅をする曲。アルバムの幕開けにふさわしく、また今作に封じ込めた多彩なサウンド・ストーリーのリードとなっている。
ジェット・セットな旅を続けるような、サウンドスケープと、そこで感じた細やかな情感もが落とし込まれたサウンド・テクスチャー。どこまでも夢見心地で魔法がかった、新鮮なアルバムだけれども、心に残っていくのは、これぞPHOENIXの作品だということ。エッジィな実験性と甘く切ない郷愁感とが織りなしていく音楽は、スタイリッシュでいて、親しみやすい。あくまで聴き手が着地するのは、エヴァーグリーンな、いつの日か感じた(そしてなかなか手の届かない)桃源郷のような地。ポップ・ミュージックの本質たるものだ。
『Wolfgang Amadeus Phoenix』に伴うツアーを終えた翌日にはスタジオに入り、ニューヨークで3カ月、レコーディングを行なった4人。しかし、ワールド・ツアーで各国を巡ったことも影響があるのか、かつてないフランスへの郷愁感にかられ、フランスへと戻ったという。そして、4人それぞれの生活のなかで、各自楽曲を練り上げて、再びパリのスタジオへ集まってアルバムを完成させた。足かけ2年、バンドの成功で慌ただしく過ぎた時間を消化して、チャレンジと、PHOENIXの紡ぐ音楽の本質とはなにかに向かいあって、今ここで鳴るべき音を見出していった。丁寧にディテールを積み重ねていって、スタイリッシュで柔らかな音楽を生みだしていく、PHOENIXの美学が貫かれたアルバムだろう。
日本盤のボーナス・ディスクでは「Entertainment」のリミックスを、GRIZZLYBEARやDIRTY PROJECTORS、BLOOD ORANGE(Dev Hynes)が手掛けている。このあたりの、USインディー・ロック人脈と通じつつ、軽やかに、音を楽しみながら“PHOENIXの王道”を突き詰めているのが、4人の現在だ。

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