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ARCTIC MONKEYS

2011年06月号掲載

ARCTIC MONKEYS

Writer 山田 美央

ふと気がつけば、2011年も上半期が終わろうとしている。今年はRADIOHEADに始まり、THE STROKES、FRIENDRLY FIRESと注目アイテムのリリース・ラッシュが続くなか、ようやくARCTIC MONKEYSの4thアルバム『Suck It And See』がリリースされる。これまで通り淡々としたペースではあるが、彼らの生み出す音楽はアルバムごとの振れ幅が大きすぎるため、どうにも時間が引き伸ばされてしまうような感覚に陥る。実際の時間以上に、ずいぶんと待たされたような気がしてしまう。それだけ期待が大きいということも要因ではあるのだろうが。

メイン・ソングライティングを手がけるAlex Turnerは、シニカルな視点と文学的なリリックで世界を切り出してきた。1stアルバム『Whatever People Say I Am, That's What I'm Not』では、若さゆえの攻撃性と早熟した音楽性が混ざり合っていた。続く2 ndアルバム『Favourite Worst Nightmare』は前作を推し進め、爆発するような焦燥と皮肉に満ちていた。

そのARCTIC MONKEYSの根底には、聴く者の深い部分を揺さぶる、どこまでも知的で繊細な脆さが存在する。そして、彼らはその影響力をいかんなく発揮できる魅せ方を、アルバムごとに探り当てることに成功している。自分の内側にある力に振り回されるか、自分自身で制御できるか、これは非常に重要だ。前2作品の危険なストリートからさらに奥へと進み、3rdアルバム『Humbug』では、澱んだ妖艶な空気が漂う裏路地へと進んでいった。

では、ニュー・アルバム『Suck It and See』で、4人の若者はどこへ向かったのだろうか。裏の裏をかいたような極限状態まで突き詰めるのかと思いきや、本作から感じられるのは、もったりと気だるい幸福感だ。レコーディングを行なったロサンゼルスの日差しで暖められた独特な空気のおかげか、充実した日々の賜物か、純粋に心地よく包み込むような楽曲の制作に専念できたようだ。親密に広がる言葉と力のほぐれたサウンドから、その様子はこぼれるように伝わってくる。

しかし、一筋縄でいかないのも彼らなワケで……。お馴染みSIMIAN MOBILE DISCOのJames Fordがプロデュースを手がけているだけあり、ロック・ビートにニヤッとしてしまうような世界観も時折顔を覗かせる。「Don't Sit Down 'Cause I've Moved Your Chair」は、BLACK REBEL MORTORCYCLE CLUBのようにブルージーでへヴィでうねる。12曲の中で日常のやわらかさと荒さという相反する要素を融合させ、恍惚感へと導く。わずか4作品のリリースでこれほどまでに変容を遂げる彼らこそ、真の意味での“エンターテイナー”と呼ぶにふさわしいのではないだろうか。

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