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COLUMN

宇宙人 しのさきあさこの「出口のない駅」【第1話】

2012年11月号掲載

宇宙人 しのさきあさこの「出口のない駅」【第1話】

 市ノ瀬さんの朝ごはんが、赤くポッとしたり、煙をスーっとさせている。

私はひたすら歯をみがく。

 洗濯する。

 着替える。

 出かける。

 市ノ瀬さんは一日中花と一緒に過ごしている。

私は花を買いに行く係で花瓶の水をかえる係。

「花瓶の花たちがしょんぼりし始めたよ。」

市ノ瀬さんは口に出さず煙をふわっとさせて知らせてくれる。

市ノ瀬さんが家からでなくなって今日でちょうど3年。

いろんな場所がコインパーキングに変わったことも、コンビニの跡地がマンションになったことも、

市ノ瀬さんは知らない。

 市ノ瀬さんの時計はとても正確で、私のそれは日に日に遅れていく。

市ノ瀬さんの時計を借りようかと思ったこともあった。

しかし私がそれを使い始めた途端、時間が遅れてしまうんじゃないかと思ってやめた。

いまではテレビが時計代わり。

 市ノ瀬さんが朝ごはんを食べ終わった。

急いで着替える私は今日も天気予報を見逃してしまった。

だから今日も私は市ノ瀬さんに天気を尋ねてしまうのだ。

「市ノ瀬さん、今日は雨降らないのかなあ?」


 今日も市ノ瀬さんから返事はない。


「行ってきます。」

「いってらっしゃい。」

「ただいま。」

「おかえり。」

 きこえる