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a flood of circle 佐々木亮介の「ディグ・ディグ・ブルース」【最終回】

2018年04月号掲載

a flood of circle 佐々木亮介の「ディグ・ディグ・ブルース」【最終回】

Age Factoryのツアーに誘われ広島へ。清水エイスケはUS/UKのインディ・バンドに精通している。ライブが終わってからワクサハッチーなどの話をし、そこから例えばホップ・アロングというバンドを教えてもらったりした。ありがとうエイスケ。自分の知らないことに詳しいやつって魅力的だよ。しかも彼の趣味は幅広く、例えばレオン・ブリッジズなんかも好きなんだとか。でもサム・クックは知らない、ってとこに現代っ子を感じ、歴史なんか知らなくても楽しめるものってサイコーだし歴史を知って楽しむのもまたサイコーだよと思ったり話したりした。ような気がする。
その晩宿泊したホテルを出てすぐの道端に、レコード屋の看板がポツンと置いてあるのを見つけた。見上げると、ビルの2階にステレオ・レコードがあるのだった。


最終回 広島STEREO RECORDS

広島県広島市中区中町2-2 末広ビル 2F

2階への階段を上がるとすぐガラスのドアがある。中に入るとそこは大きく広い窓ガラスに囲まれていて、とても明るい空間だった。入るのに勇気が要るタイプのレコード店も多いけど、ステレオ・レコードにはもっとフランクな空気が漂う。変な緊張感はなしだ。オール・ジャンルで幅広く、パッと見の品数も多いけど、この連載で触れてきた様々な店の中でも特にニュー・リリースのアナログ盤のラインナップの充実度は図抜けている。ラップのコーナーにはグラミーのタイミングもあってかケンドリック・ラマー「DAMN.」のアナログが鎮座していたし、日本のアルバムも新作や近作がぎっしり入ってる。佐々木亮介「LEO」にも出くわした。うす、あざす。
「LEO」と言えばメンフィス録音なんで、それを機にメンフィスものを買おうとソウルやレア・グルーヴのコーナーをディグ・ディグして出会ったのがこれだ。


*Just Family / Dee Dee Bridgewater(1977)

ディー・ディー・ブリッジウォーターはメンフィス出身のシンガーで、ジャズ・ヴォーカルのイメージが強いが実際はメンフィス・ルーツらしくゴスペルやブルースやソウルが混じったメンフィスらしいフィーリングを持ったシンガーでもある。
このアルバムはジャケットにパンチがあって、枯れ果てた大地に妊婦が裸で立ち尽くしている、というマジどうやって思いついたんすかって感じの構図なんだけど、サウンドは聴きやすい。パーソネルを見るとスタンリー・クラークのプロデュースでジャズのミュージシャン達が集まっている作品だと分かるが、インタープレイの応酬とかスキャットで聴かせる、みたいなジャズ的なアプローチはほぼなくて、その実、歌物のポップなアルバムだと思う。チック・コリアが参加している曲も、弾きまくりでもなければ張り詰めた複雑なコードで聴かせるとかいう訳でもなく、むしろ可愛らしさすら感じるポップ・ソング。最近のだとクリス・デイヴの新しいアルバムの折衷具合とかに通ずる自由さがある気がした。
ちなみにディー・ディーの最新作「Memphis...Yes, I'm Ready」は去年出たばかりで、彼女が未だに恐ろしいほどバリバリ歌えることを示している。これは「LEO」同様、ブー・ミッチェルの仕事である。

さて、リアルタイムの新しい作品達が刺激的で目まぐるしい2018年。どれだけ新しいものを喜んでも、新しいものの中にも歴史がある。その作品自体の歴史のことでもあるし、その作品が影響されているものでもあるし、引用しているものでもあるし、外側から見て繋がっているものでもあるし......たった今まで無視されてきている価値観の見直しや転覆が起こせるのは、歴史を経ているか歴史が体に染みついているか、もしくは軽いノリでいいから誰も参照してない過去を掘り当てて取り込んじゃえるような、そういうやつなんじゃないかな。そうやって発明品が生まれてくる。今そんな気がしてる。
先のことを想像して、先に進むために、歴史が活きてくる時もある。知ってるだけじゃダメで、面白くやれないとダメなんだけどさ。今を見つめる面白さの中に、過去を探る面白さが同じように存在している。ような気がする。繋がってるしさ。
この世の全ての音楽を聴いて映像を観て文章を読んで、というほどの時間はもう誰にも残されてないでしょ。っていうか日々増えてくし。誰にとっても時間は前にしか進まないし。でもそれって超面白い。俺は今じっくりやるよりガンガン行きたい気分すね。
さあ楽しもう。
これで「ディグ・ディグ・ブルース」は最終回。
スクリーム!と、読んでくれたあなたに感謝します。

佐々木亮介 / a flood of circle

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